【医師監修】インフルエンザワクチンは本当に必要?打つリスク・打たないリスクを医学的に比較
「毎年迷うけれど、今年はどうしよう…」――外来でも必ずいただくご相談です。
インフルエンザのワクチンは、“感染をゼロにする注射”ではありません。けれど、かかったときの入院や重症化を大きく減らす「シートベルト」のような存在です。この記事では、医師の立場から、打たない場合にどのくらいリスクが残るのか、そして打った場合にどれだけ減らせるのかを、できる限り数字でお話しします。妊婦さんや授乳中の方、小さなお子さんのご家庭にも、判断の材料になるよう丁寧にまとめました。
「打たない」まま冬を迎えると、どれくらいの確率で困るの?
人によって流行の波の当たり方は違いますが、近年の統計を平均すると、流行期には子どもで年間10〜20%、高齢者で約10%がインフルエンザに罹患します。さらに、そのうちの一部は肺炎や脱水、脳炎等で入院が必要になります。年齢層別にみると、0〜4歳と65歳以上は入院率が目立って高く、乳幼児はけいれんや中耳炎、妊婦さんは重症化のリスクが上がります。家庭内に小児・高齢者・妊婦さんがいる場合は、家庭全体の「守り」を固める視点が欠かせません。
「打つ」と何がどれだけ変わる? ― 数字でみるメリット
ワクチンは“かからないため”というより、「かかっても軽く済ませるため」に威力を発揮します。米CDCや国内外の研究では、入院の危険を概ね40%前後減らすことが繰り返し示されています。小児ではさらに効果が大きく、PICU(小児集中治療室)レベルの重症化を7割前後減らしたという報告もあります。妊娠中の接種はお母さん自身のインフルエンザによる入院リスクを約40%軽減し、さらに生後数か月の赤ちゃんを守る抗体も受け継がれます(妊娠中はどの時期でも接種可能)。 [oai_citation:0‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu-vaccines-work/benefits/index.html?utm_source=chatgpt.com)
「発症自体をどれだけ防げるの?」という点は年や株によって差が出ます。概ね40〜60%が目安ですが、合わない年は下がることもあります。それでも入院や死亡の予防効果は比較的安定しているため、医療現場では“守りの最後の砦”として位置づけています。 [oai_citation:1‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu-vaccines-work/php/effectiveness-studies/index.html?utm_source=chatgpt.com)
副反応という「打つリスク」は?
多くは腕の痛み・だるさ・微熱で、1〜2日でおさまります。重いアレルギー(アナフィラキシー)は非常にまれで、およそ100万回に1〜1.3回という大規模データがあります。卵アレルギーに関しては、かつてより製造が洗練され、多くの方が接種可能です。心配な方は事前に医師へご相談ください。 [oai_citation:2‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccines/egg-allergies.html?utm_source=chatgpt.com)
妊婦さん・授乳中は?
妊婦さんの接種はどの妊娠期でも安全で、お母さんと赤ちゃん双方の重症化予防に役立ちます。授乳中のワクチンも問題ありません。むしろ、家庭内で一番倒れてはいけない人が守られることに大きな意味があります。 [oai_citation:3‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccine-safety/vaccine-pregnant.html?utm_source=chatgpt.com)
同時接種について
インフルエンザと新型コロナのワクチンは、同じ日に別の部位で同時に接種しても差し支えないとされています。忙しい方ほど、ワンチャンスで予防線を張っておくのは合理的です。 [oai_citation:4‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccines/coadministration.html?utm_source=chatgpt.com)
子どもは何歳から? 何回?(補足)
日本では生後6か月から接種が可能で、13歳未満は2回接種が基本。1回目で免疫を“準備”し、2回目でしっかり底上げするイメージです。年によって流行が早まることがあるため、効果が出るまで約2週間かかる点を逆算して計画しましょう。 [oai_citation:5‡厚生労働省](https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa_eng.html?utm_source=chatgpt.com)
数字で並べる「打つ vs. 打たない」
ざっくりとした目安ですが、家庭に小児や妊婦・高齢者がいる状況で比較すると、次のような差が見えてきます(研究季節や対象によりばらつきがあるため、幅をもってご覧ください)。
【打たない場合】
・流行期の罹患:子ども10〜20%/高齢者約10%
・入院:小児・高齢者で有意に増加(年によって波あり)
【打った場合】
・入院リスク:おおむね40%前後減(小児は重症化予防がより顕著)
・PICUレベルの重症化:小児で約7割減
・妊婦さん:入院リスク約40%減+出生直後の赤ちゃんを間接的に保護
※文献は本文末の参考資料をご参照ください(CDC・国内研究など)。
「結局、うちは打つべき?」――判断に迷うときの目安
私は、次のように考えると決めやすいと思っています。
①「自分が寝込むと家庭が止まる」人は打つ価値が高い(ワンオペ・育児中・受験生の親など)。
② 家庭に“小さな子・妊婦・高齢者”がいるなら、その人を守るために周囲も接種を。
③ 打っても感染はゼロにならない。けれど重症化を下げる確率は高い。
副反応への不安が強い方は、体調の良い日に、かかりつけで相談しながら接種すれば大丈夫です。
あわせて読みたい
家庭でできる「守り」を、さっと整える
ワクチンだけで全てを解決するわけではありません。加湿・換気・手指衛生・体温の早期チェックは、どの季節でも効く基本の4点セットです。必要十分な道具を最小限でそろえておくと、いざという時に慌てません。
医師のおすすめ基本セット
まとめ ― 「万能ではないけれど、確率を大きく動かせる」
インフルエンザのワクチンは、完璧ではありません。それでも、入院や命に関わる確率を下げる力は繰り返し確かめられてきました。
「自分は軽く済むかもしれない。でも家族は?」――ここが、毎年私が接種をおすすめする理由です。
今年の冬を、少しでも安心して過ごせますように。迷ったら、いつでもかかりつけ医にご相談ください。
参考文献
- CDC. Benefits of the Flu Vaccine(ワクチンの効果・重症化予防のデータ)。 [oai_citation:6‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu-vaccines-work/benefits/index.html?utm_source=chatgpt.com)
- CDC. Seasonal Flu Vaccine Effectiveness Studies(季節ごとのVEの要点)。 [oai_citation:7‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu-vaccines-work/php/effectiveness-studies/index.html?utm_source=chatgpt.com)
- Trombetta CM, et al. Influenza vaccination and hospitalization risk(成人で入院41%減)。 [oai_citation:8‡PMC](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9143275/?utm_source=chatgpt.com)
- AAP/CDC等:小児での入院・救急受診40〜60%減に関する報告。 [oai_citation:9‡AAP Publications](https://publications.aap.org/pediatrics/article/146/5/e20201368/75351/Vaccine-Effectiveness-Against-Pediatric-Influenza?utm_source=chatgpt.com)
- CDC. Flu Vaccine Safety and Pregnancy(妊娠期の安全性)。 [oai_citation:10‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccine-safety/vaccine-pregnant.html?utm_source=chatgpt.com)
- CDC. Breastfeeding and Vaccination(授乳中のワクチン一般原則)。 [oai_citation:11‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/vaccines-pregnancy/hcp/vaccination-guidelines/index.html?utm_source=chatgpt.com)
- CDC. Flu and COVID-19 Vaccines at the Same Time(同時接種)。 [oai_citation:12‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccines/coadministration.html?utm_source=chatgpt.com)
- WHO/SAGE. Coadministration of seasonal influenza and COVID-19 vaccines(同時接種ガイダンス)。 [oai_citation:13‡世界保健機関](https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-vaccines-SAGE_recommendation-coadministration-influenza-vaccines?utm_source=chatgpt.com)
- 厚生労働省 Q&A:日本の小児接種回数(13歳未満は2回)。 [oai_citation:14‡厚生労働省](https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa_eng.html?utm_source=chatgpt.com)
- Shinjoh M, et al. 日本の小児接種レジメン・VE(PLOS One/2021)。 [oai_citation:15‡PLOS](https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371%2Fjournal.pone.0249005&type=printable&utm_source=chatgpt.com)
- CDC. Egg allergy and flu vaccines(アナフィラキシー頻度1.35/100万)。 [oai_citation:16‡疾病管理予防センター](https://www.cdc.gov/flu/vaccines/egg-allergies.html?utm_source=chatgpt.com)
- Pennisi F, et al. Post-Vaccination Anaphylaxis(系統的レビュー)。 [oai_citation:17‡PMC](https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11769139/?utm_source=chatgpt.com)
※本記事は一般的情報の提供であり、診断や個別の医療行為に代わるものではありません。慢性疾患がある方、アレルギー歴がある方、体調不良時の接種は必ず医療者にご相談ください。




コメント