【医師解説】子どもの頭を打ったときの受診目安|CT検査が必要なケースと被曝リスク
まずは子供の健康について全体像を:
医療上の注意:本記事は一般的な医療情報です。実際の受診判断は、お子さんの様子・既往歴・年齢によって個別に異なります。迷ったら小児科・救急外来にご相談ください。
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子どもが頭をぶつけた瞬間、ヒヤッとしますよね。「救急車? 病院? 様子見?」——正解は受傷状況・直後の反応・その後の変化で変わります。この記事では、現場で使われる基準(PECARNなど)と日本の診療慣習を踏まえ、親が今日から実践できる見かたとケアを、やさしく整理します。
救急車・受診・様子見の“3段階”で考える
迷ったら上の段階に合わせるのが安全です。
🚑 救急車を呼ぶべきケース
- 意識がない/呼びかけへの反応が弱い・持続する
- けいれんが止まらない、または繰り返す
- 呼吸が不安定、口唇が紫っぽい(チアノーゼ)
- 止まらない大量出血、頭の変形(陥没など)が明らか
🏥 急いで病院に連れて行くケース(当日受診)
- 繰り返しの嘔吐(目安:2回以上)
- 普段より元気がない/ぼんやりが続く/動きが鈍い
- 強い頭痛、光や音を嫌がる
- 一時的でも意識消失があった(転倒直後のぐったりなど)
- 大きなたんこぶ、押すと強い限局痛
- とくに1歳未満(症状が出にくく判断が難しい)
👀 自宅で様子をみてもよいケース
ぶつけた直後にすぐ泣き、今は普段どおり遊べる。出血は少量で止まり、意識・行動の変化がない——この条件がそろえば多くは経過観察でOKです。
ただし最初の24時間は要観察。寝かせる前と翌朝に声かけして反応を確認しましょう。
CTは必要?——被曝とメリットのバランスを“数字”で理解
- 小児頭部CTの被曝量はおおむね約2 mSv(装置や体格で前後)。胸部X線(約0.02 mSv)の約100倍。
- 1回のCTで将来がんになる絶対リスク増加は極めて小さい一方、危険な頭蓋内出血の見逃しを防ぐ効果は大きい。
- 臨床現場では必要最小限に絞って撮影します。
なぜ外傷初期はCTが第一選択?(CTとMRIの違い)
- CT:数分で撮影。骨折・急性出血に強く、救急の第一選択。
- MRI:被曝ゼロだが時間がかかり、小児は鎮静が必要になることも。外傷“直後”のファーストチョイスではない。
医師は何を見て「CTが必要か」を決めている?(やさしいPECARN)
小児頭部外傷で有名な意思決定ルールがPECARN(ペカーン)です。ざっくりいうと、以下が赤信号・黄信号の目安になります。
- 2歳未満:意識レベル低下/限局痛(押すと痛がる一点)/前頭骨以外の大きなたんこぶ/危険な受傷機転(高所転落など)/“いつもと違う”行動
- 2歳以上:意識レベル低下/重い頭痛/嘔吐を繰り返す/危険な受傷機転/記憶障害(健忘)
これらが全くない場合は、臨床的に重要な頭蓋内損傷の確率が非常に低く、CTを省略して観察が選ばれます。一部当てはまる場合は、年齢・症状の強さ・経過時間・家庭での観察体制などを総合して観察 or CTを決定します。
たんこぶ・切り傷・出血のホームケア
たんこぶ(皮下血腫)
多くは心配いりません。まずは10〜15分冷やす(保冷剤はタオルでくるむ)。腫れは数日〜2週間で引いていきます。
ただし1歳未満は骨が柔らかく、まれに陥没骨折が隠れることも。迷ったら受診を。
出血があるとき
清潔なガーゼやタオルで5〜10分の圧迫止血。止まれば多くは問題ありません。
止まらない/大量出血/深い切創/汚染が強いときは受診へ。詳しい創処置は
「子どもの傷は消毒すべき?」も参考に。
痛み止め
痛みが強ければアセトアミノフェンが第一選択。用量は体重で決まります。家庭での投与は指示が明確な場合のみにし、迷うなら受診を優先しましょう。
回復の土台づくりは睡眠から:
「子どもの睡眠と学力・発達」/
「ブルーライトは目に悪い?」
家でどう見守る? 観察のコツとスケジュール
最初の6時間がとくに大切。そこを過ぎても24時間は注意深く見守ります。
- 寝かせる前に声かけ→反応を確認(揺さぶって起こす必要はありません)。
- 嘔吐が増えないか、元気・歩行・言動がおかしくないかチェック。
- 翌朝もいつも通り起きるか・食べられるかを確認。
少しでも不安なら遠慮なく受診してください。
学校・運動への復帰(脳震とうを疑うとき)
ふらつき・頭痛・気分不良・光や音がつらい——いわゆる脳震とう様症状があるときは段階的復帰が原則です。
- 24〜48時間は安静(スクリーン時間も控えめ)。
- 散歩など症状が悪化しない軽い活動から。
- 短時間の登校 → 通常授業へ。
- 軽運動 → 非接触運動 → 通常練習 → 試合(各段階は少なくとも24時間あけ、症状が出たら一段階戻る)。
まとめ
子どもの頭部外傷の多くは軽症です。ただし意識障害・反復する嘔吐・強い頭痛・異常行動があれば当日受診を。
CTは被曝リスクがゼロではありませんが、必要な状況では命を守る検査です。迷ったら「救急車/当日受診/自宅観察」の3段階で考えましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. 嘔吐が1回でもCTは必要?
A. 1回のみで、その後いつもどおり遊べるなら必須ではありません。ただし反復する嘔吐、ぐったり、意識がぼんやりは受診のサインです。
Q. 見た目が元気なら安心?
A. 打撲後数時間してから悪化(遅発性出血)することも。最低でも24時間は観察を。
Q. 受診のタイミングは?
A. 最初の6時間は要観察。異常がなくても24時間は近くで見守りましょう。
Q. たんこぶは心配?
A. 皮下の血のたまりで、多くは自然に吸収されます。冷やして経過観察でOK。1歳未満は受診推奨です。
Q. 出血時の応急処置は?
A. 清潔なガーゼで5〜10分圧迫。止まりにくい/大量出血/深い傷/汚染が強い場合はすぐに受診してください。
参考文献
- Pearce MS, et al. Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours. Lancet. 2012.
- Kuppermann N, et al. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma (PECARN). Lancet. 2009.
- NICE Guideline NG232: Head injury: assessment and early management.
- 日本小児科学会/日本外傷学会 小児頭部外傷関連ガイドライン(最新版)




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